コロナ禍で食品のテイクアウトが加速しました。
一方で、外食した際の食べ残しを持ち帰る動きはなかなか進みません。
海外では、外食時の食べ残しを持ちかえることは一般的ですが、なぜ日本では浸透しないのでしょうか?
今回は、その理由をわかりやすく解説します。
食事の種類
飲食業界では、外食・内食・中食という言葉が使用され、それぞれ以下の通り定義されています。
- 外食は、レストランなどで食べる食事
- 内食は、家で調理して食べる食事
- 中食は、総菜など家に持ち帰って食べる食事
今回は、外食で食べ残した食事のテイクアウトを対象にした解説です。
テイクアウトに慎重な理由
理由ははっきりしています。
提供するお店側が、責任を負いたくないからです。
外食時に提供された食事をお客様が自宅に持ち帰り、食べた後、体調不良になったといわれると困るからです。
ならば「持ち帰りを禁止にしてしまえ」という発想です。
飲食店側が食べ残しテイクアウトを禁止にする問題点
提供するお店側の言い分も理解できますが、実はいくつか問題があります。
以下、問題点を説明します。
- 所有権
- 民法では、売主と買主が合意した時点で、所有権は買主に移ります。
飲食店の場合だと、お客さんが食事を注文し、お店が注文された食事を提供する。その後、お客さんがその食事を受け取った時点でその料理はお客さんのものになります。
先払いか後払いからは、契約で別途定めない限り、関係ありません。
お客さんが自分のものを持ち帰ることができないのはおかしな話です。
- 民法では、売主と買主が合意した時点で、所有権は買主に移ります。
- 食品衛生法
- 飲食店を開業するには、飲食店営業許可が必要です。
この許可があれば、イートインのみのお店でもテイクアウト専門のお店でも、営業できます。
この許可は、食品衛生法という法律で規定されているのですが、この法律の中に「お客さんに自分の食べ残しを持ち帰らせてはいけない」という決まりはありません。
- 飲食店を開業するには、飲食店営業許可が必要です。
- フードロス対策
- フードロス対策は世界的な広がりをみせており、全ての先進国で対応が求められています。
外食時の食べ残しは、工場で廃棄する量と比較すると少ないですが、それでも世論が対策を要求しているのが現実です。
- フードロス対策は世界的な広がりをみせており、全ての先進国で対応が求められています。
お店側の言い分
一方で、食事を提供するお店側もテイクアウトを謳いたいけど、謳えない事情があります。
それは「衛生管理」の問題です。
以下、衛生管理の問題を分解して説明します。
- 持ち帰り容器
- お客さんがどんな容器で持ち帰るのかお店側は管理できない。きれいな容器ならいいけど、洗っていない不衛生な容器を使用され、それが原因で体調が悪くなられても困る。
- 持ち帰りの時間
- お店側は大体30分以内に食べてもらうことを想定しています。お店で食事した後に、寄り道をして、数時間後に食べる場合は、安心して食べられるという保証はできない。
- 保管状況
- 持ち帰るときに、クーラーボックスなどで保冷してくれるといいのですが、真夏の暑い時期にエコバッグに入れて、寄り道をされると食べ物がどんどん劣化します。
- 食べるタイミング
- ディナーで余った食事を持ち帰った場合、食べるのは大体次の日の朝かお昼です。長い場合は、次の日の夜かもしれません。冷蔵庫で保管していたとしても、そのような状況をお店側では想定していないので、安全の保証はできません。
「お客さんが自分の意志で持ち帰ったのだから、自己責任でしょ」という主張は非常に真っ当な意見であり、その通りです。
しかし、自分の責任であるにも関わらず、クレームを言ってくるお客さんは少なからず存在します。
そういった揉め事が起きるくらいなら「予め禁止にしてしまえ」と考えるのが日本企業であり、日本文化です。
お店側が食べ残しテイクアウトを禁止するのは法律違反か?
ここまで読み進めてくると、食事を提供するお店側の主張には法的な根拠が全くないように思えます。が、実はそうでもありません。
食品衛生法の第一条には、以下の内容が書かれています。
第一条 この法律は、食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もつて国民の健康の保護を図ることを目的とする。
食品衛生法
ここでいう公衆衛生を簡単に説明すると、
「自分の店舗の中だけでなく、広く食中毒を未然に防ぎましょう」ということです。
この観点にたつと、
- お客さんはきれいな容器に入れて持ち帰るのか?
- ちゃんと冷蔵庫で保管してくれるのか?
- いつ食べるのか?明日?明後日?
- 1回ですべて食べてくれるのか?
などを考えると、食べ残しを持ち帰ることを禁止することは、正しい判断という理解もできそうです。
管轄の保健所から、
「食べ残しのテイクアウトはさせないよう指導されている」
とお店側から言われたことがありますが、これも公衆衛生観点からの指導です。
注意が必要なこと
ここまで、食べ残しのテイクアウトについて、説明してきましたが、お酒は少し事業が異なりますので、説明しておきます。
飲食店の営業許可があれば、店内で飲むためのアルコールを提供することは問題ありません。
一方で、未開封のアルコールを販売する場合は、酒税法という食品衛生法とは別の法律に基づき、お店の所在地の所轄税務署長から「酒類販売業免許」を受けとる必要があります。
ここで改めて考えてみると、
「未開封のお酒をお客さんが持ち帰る=お店側が未開封のお酒を販売した」
「酒類販売業免許をもっていないお店であれば、酒税法違反」
と判断される可能性があります。
未開封のお酒を持ち帰ることは、公衆衛生の観点からは全く問題ないのですが、法律の観点からは問題があることを覚えておいてください。
今後の課題
飲食店での食べ残し廃棄を減らすためには、提供するお店側と購入するお客さんの間に共通認識をもっておく必要があります。
自己責任という言葉が浸透しにくい日本ですが、MOTTAINAI発祥の地ですから、必ず良い落としどころが見つかると思います。
お店側の事情を正直にお客さんに説明することも効果的だと思いますので、フードチェーン全体で取り組んでいきましょう。