【世界一分かりやすい】品質リスクアセスメント

リスクという言葉はビジネスの文脈だけではなく、日常生活でもよく使われるようになりました

品質保証という仕事は、リスクアセスメントが全てと言っても過言ではありません

本日は私が普段、行っているリスクアセスメントを分かりやすくご紹介したいと思います

自分で言うのもなんですが、他社だと有料級と言われます

読んで損はさせません

 

リスクアセスメントの目的

まず、リスクアセスメントを実施する目的は何でしょうか?

  • 安心安全な製品を提供するため
  • 顧客に喜んでもらうため
  • 社会的責任を果たすため
  • 競争力を高めるため

皆さん、立場によって色々あると思います

品質保証の立場だと、リスクアセスメントの目的は未然防止です

未然防止を重要視する理由

では、なぜ未然防止が必要なのでしょうか?

これは、簡単です

不具合に早く気づいて対応したほうが、お金も時間も少しで済むからです

以下がイメージです

企画0 → 設計10 → 製造100 → 市場1000

企画段階だとエクセルの値を入力し直すだけで済むことが、製造で気づくとスケジュール調整、工場のライン調整、資材の入れ替え等、多くの業務が発生します

 

用語の定義

具体的なリスクアセスメントに入る前に、ここで登場する用語の意味を定義しておきます

用語の定義は、関係者の誤解を防ぐために、非常に重要ですので、打合せの際は、必ず実施するよう習慣化してください

リスク

ISO31000(リスクマネジメント-原則及び指針-)では、

「目的に対する不確かさの影響」と定義されています

よりわかる安くするため、モデリングすると、

リスク=危害の大きさ✕発生頻度

危害はハザードと言ったりもします

モデリングについてはこちら↓

【誰も教えてくれない】勉強の目的と学歴が示すこと

 

ここで注目して欲しいのは頻度です

例えば、「この商品を使っていたら、手を切りました」というクレームがあったとします

手を切る=危害の大きさです

危害の大きさだけで大騒ぎしてはいけません

手を切った人が、100人中1人なのか、10,000人中1人なのかで、対応が変わります

これがリスクの考え方です

リスクアセスメントは重点思考(≒優先順位付け)が基本的な考え方です

安全

ISO / IEC ガイド 51:2014では、

「安全=許容できないリスクがないこと」と定義されています

言い換えると、

「全てのリスクが許容範囲にある状態」です

ここでのポイントは、許容できるリスクは含まれているということです

例えば、

車は事故を引き起こすけれど、それ以上にメリットがあるので、みなさん乗っていますし、法律で製造も流通も禁止されていないですよね?

これが安全です

リスクはあるが、許容されている状態です

一方、完全にリスクがない状態を本質安全といいます

車で例えると、車による事故がゼロの状態です

車の本質安全を追求すると、車という存在を世の中から消すしかないです

これをリスク除去といいます

具体的には、

車を製造させない、流通させない、街中を走らせない、乗らせない等です

安全については、こちら↓の記事もご覧ください

世界一分かりやすい安全の定義_お餅を例に

許容の判断方法

リスクが許容できる・できないを判断する方法は2つです

  1. メリットがデメリットを上回る
  2. 文化的背景に基づき、世間から暗黙の了解を得ている

①のわかりやすい事例は、医薬品です

副作用もあるけど、それ以上に良い作用が期待できるから使っています

またタイヤも同じです

タイヤはパンクというデメリットがあるけれど、乗り心地等、それを上回るメリットがあるので、使用されています

②の身近な例は、お餅です

日本では毎年、数百人がお餅を喉に詰まらせて、亡くなっています

しかし、お餅の販売が禁止にならないのは、お餅はただの嗜好品ではなく、日本文化に根ざした由緒正しい食べ物だからです

一時期、話題になったこんにゃくゼリーとの違いはココです

詳しくはコチラをご覧ください↓

世界一分かりやすい安全の定義_お餅を例に

 

予見可能な誤使用

リスクアセスメントにおける予見可能な誤使用は、以下の3つになります

  1. 製品使用中に製品不良、事故、故障などが生じた場合に人が容易にとりうると考えられる反射的な行動
  2. 製品使用中に思わず正規の手続きを省力して早い結果を得ようとすると容易に考えられる不安全な行動
  3. こども、または障害者のような人がとると容易に考えられる予見可能な挙動

一つずつ、例を用いて説明します

①製品使用中に製品不良、事故、故障などが生じた場合に人が容易にとりうると考えられる反射的な行動

以前、こんな事故がありました

お湯の設定温度を80℃以上に設定したことを忘れて、そのまま湯船にお湯を溜めた。湯船に浸かろうと足を入れた瞬間、熱さで足を反射的にひっこめた勢いで、転倒しケガをした

これが容易にとりうる反射的な行動事例です

この事故をきっかけに、給湯温度を容易に60℃以上には設定できないようメーカー側が工夫するようになりました

②製品使用中に思わず正規の手続きを省力して早い結果を得ようとすると容易に考えられる不安全な行動

下の図をご覧ください。

メーカーが推奨するコードの巻き方は、右です

左は、コードの根本が断線するので、メーカーがやめてくださいと注意喚起している巻き方です

ほとんどの方は、手軽に巻ける右側を選んでいるのではないでしょうか

これが使い手の立場で考えると、容易に想像できる不安全な行動事例です

③こども、または障害者のような人がとると容易に考えられる予見可能な挙動

健康体の成人とは思考のレベル、身体の状況が全く異なるため、非常に注意が必要です

こどもは、穴があればウォーターサーバーのお湯吐出口に指をいれますし、小さいものは何でも口に入れます

また高齢者は自分の体重を支えることができず、転倒し、容易に骨折することがあります

これらがこども、または障害者のような人がとると容易に考えられる予見可能な行動事例です

リスクアセスメントの進め方

重要な言葉については定義できたので、具体的なリスクアセスメントの実施方法の説明に移ります

リスクアセスメントの進め方は以下になります

引用元:リスクアセスメント・ハンドブック_経済産業省発行
  1. 使用および予見可能な誤使用の明確化
    まず5W1Hなどをベースに、だれが、いつ、どこで、どうやって使うのか?といった使用シーンを明確にします。
    使用者のイメージは抽象的ではなく、実在する人物のように具体的に設定することで抜け漏れを防げます。
    使用シーンを明確にしたら、さきほど述べた予見可能な誤使用を設定します。
  2. 危険減の特定
    リスク=危害の大きさ✕発生頻度ですので、ここでは危害の大きさを特定します。
    例:手指をケガする、やけどする、発火する等
  3. リスクの見積もり
    次に発生頻度をを特定します。
    発生頻度の見積もりは、いくつか手法がありますが、細部にこだわりすぎないことが重要です。
    10回に1回、100回に1回、1,000回に1回といったレベルで十分です。
  4. リスクの評価
    危害の大きさ×発生頻度でリスクを定量化した後、そのリスクが許容できるのか?あるいは許容できないのか?を判断します。
    リスクを判断する際は、全てに対応するのではなく、重点志向が重要です。
    判断に迷ったときは、他社品や過去のリコール情報等も参考にしてください。
  5. 許容可能なリスクは達成されたか?の確認
    全てのリスクが許容範囲に入るまで、リスクの低減を繰り返します

リスクアセスメントのやり方は、ISO / IEC ガイド 51:2014という国際基準で決められているので、国や業界が異なっても、基本的な考え方は同じです

3 Step Method

許容できないリスクが残っている場合は、リスクの低減が必要です

リスクを低減する際の基本的考え方は、3 Step Methodと呼ばれ、以下の順番で取り組みます

  1. 設計によるリスクの除去あるいは低減(本質安全設計)
  2. 保護手段(保護装置、保護回路)によるリスクの低減
  3. 使用上の情報提供によるリスクの低減

本質安全設計

一番最初に検討するのが本質安全設計=リスクの除去です

下の図で説明すると、熱源(火)があるから、こどもがやけどする可能性がある

であれば、熱源(火)自体をなくせないか?を一番に検討します。

身近な例ですと、ダイソンの羽のない扇風機が良い事例です

保護手段

次に熱源(火)自体はなくせないとなった場合は、熱源(火)に触る頻度を下げられないか?検討します

こどもが触れないよう、柵を設置するなどが考えられます

リスク=危害の大きさ✕発生頻度で説明すると、発生頻度を下げる方法の検討になります

情報提供

リスクを除去できない、またリスクの低減もできない、あるいはリスクを低減したけど、まだ許容できるレベルではないとき、最後に検討するのが情報提供です

簡単に言うと、注意表示です

ここで重要なことがあります

みなさん、リスクを低減するために注意表示を検討しますが、ほとんど効果がないと思ってください

文字を読めないこどもには意味がないですし、注意表示をきちんと確認する人はほとんどいません

また注意表示をたくさん記載することで、何に一番気を付ければ良いのか分からなくなります

注意表示ではリスクは低減できないと考え、注意表示がなくても許容リスクにできる方法を常に考えましょう

一方で、製造物責任法(PL法)の観点だと、注意表示は訴訟に発展した際に非常に重要になります

ここでいう「注意表示ではリスク低減できない」は、お客さまの立場から見た時の解釈です

リスクアセスメントのヒント

効果的なリスクアセスメントを実施するには、基本となる型を覚えて、あとはひたすら実践あるのみです

その際に、私は以下2つを特に意識しています

  1. 隠れた前提を疑う
    いわゆるクリティカルシンキングです。
    マーケッターや開発者は、商品やサービスを誰よりも理解しているがために、無意識の思い込みがあります。彼らの発言の根底にある前提を深くさぐり、思考バイアスを指摘しましょう
  2. 複眼的な思考で考える
    「この対策を実施すれば、全てうまくいくか?」
    部分最適になっていないか?この対策をすることで、今までなかった不具合が発生しないか?を常に確認しましょう

R-Map

電気製品等のリスクアセスメントを実施する際には、R-Mapという手法が非常に有効です

R-Mapの使い方については、別の記事で説明します

まとめ

ここまで、読んで頂いた方は、リスクアセスメントの基本は理解できていると思います

あとは実践あるのみです

実践した方は、必ずつまずくポイントがいくつか発生すると思います

その際は、気軽にお問い合わせください。

やる気のある、前向きな方の相談は無料です

最新情報をチェックしよう!